組織内弁護士のキャリアパスその2
組織内弁護士のキャリアパスその2を
書きたいと思います。
② 法律事務所→インハウス
これも最近多いですよね。
キャリアチェンジする理由はいくつかあります。
ア 一般民事・刑事の市場規模が徐々にシュリンクしていく中で、けど、クライアントへのストレスはあんまり変わんない中で、もっと安定的な仕事ってあるんじゃないかっていう線。
イ がっつり企業法務やってる中で、もっとビジネスの人らと一緒にプロダクトを作っていく方が楽しそうだし、第一、このまま事務所の兵隊でいても未来なんてあるのか?っていう線。
ウ もともと弁護士にこだわりがなくて(法律は好きだけど)、自分もビジネスをやっていきたいという線。
もっと他にもあるでしょうが、ざっくり言えば上記のような理由なんじゃなかろうかと推察します。
ちなみに、昨日の日経夕刊に載っていた「弁護士、企業で武者修行」という記事、本職の社内弁護士からすると、「はぁあ??」という印象です。
そもそも出向というインフラが用意されているわけですね。つまり、出向先という人脈を切り開いたのは彼ら自身ではないし、たかだか1〜2年、しかも出向者という立場で、帰ったら身分が保証されている人たちのどこが「武者修業」なんでしょう。
とりあえず、ビジネスに興味あります風な、この業界のことを知っています体の、有益なアドバイスできます!という役作りが大半です。
実際、大して具体的なアドバイスできないと思いますね。現場の人らと飲みに行ったこともない人が大半でしょうし、所詮、別の船に乗っている人らなわけなので。したがって、こういう人たちは今回の検討からは除きます。日経の記事ってこういうところあります。ジャーナリストをうたうのであれば、ちゃんと「現場」の人にヒアリングしましょう笑
では、本論に。
「先生と一担当の壁」
多分、法律事務所からのインハウスで一番戸惑うのが、コミュニケーションだと思います。事務所だと、難解な言葉やディティールに寄った話をしていれば、なんとなく誤魔化せることってあるんですよね。
しかし、それは現場の人には通用しません。もっと具体的で、レベル感を下げた議論じゃないと分からないんですよ。法律事務所のノリで、現場の人と会話した途端に、現場の人の頭の中には????マークがつきます。今までは、先生で誤魔化せていた部分が、通用しなくなるという壁です。
「肌感覚と意思決定」
また、社外弁護士には、会社の中にいるからこその肌感覚みたいなものが分からない。あのときのあの案件、この人のあの一言で、決まったんだよね/潰されたんだよねという背景事情です。どんだけ正しい意見でも、それって時と場合によっては通用しないよね。という歴史観とも言えます。
加えて、現場の人は、その意見が正しいかどうかよりも、誰が何をいったかということを重視します。つまり、関係値ができていなければ、どんなにいい意見でも採用されないということを自覚する必要があります。
こんなことは会社員としては序の口ですよね。
その波風の現場に立たされてこそ、初めて社内弁護士としての力量が試されます。そこを乗り越えるにはけっこうな時間がかかるんですよ。。
これを1、2年で押さえるのって本当にすごい人でないと無理です。なので、法律事務所→インハウスを考える人は、少なくとも2年はその会社で、下積みをすることを覚悟しないといけないのではないかと思います。
「争訟を踏まえたアドバイス」
社外弁護士→インハウスのハードルって簡単なようでいて、けっこうそれなりにあるんです(まあ大したハードルではないんですが)。逆にいうと、上記の感覚の違いを乗り越えさえすれば、めちゃくちゃ伸びしろあるんじゃないかなと思います。やはり、「争い」という、ある意味、究極の肌感覚を知っているわけだから、アドバイスも、そこを睨んだ深みのあるものになりそうです。ただ、これは現場の事情をしっかりと踏まえていないと、かなりの確率で、ポカーン??な状況が生まれるリスクも孕んでいます。
「結論」
社内であれ、社外であれ、弁護士の仕事は事実関係を精確に押さえる!ということが肝です。
訴訟を知っているかどうかよりも、事実関係をどれだけ把握しているのか?そして、その事実に対する自分の評価がどれだけ的を得ているかという部分がやはり大事なわけですね。
その業界特有の「慣習法」をどれだけ自分の血肉にできるかどうか、それが「法律事務所→インハウス」の最終的な決め手になりそうです。
したがって、それくらいの「意気込み」というか「覚悟」のある社外弁護士であれば、かなりの確率で、インハウスとしても成功しそうです。いわゆる外様で、なんとなくビジネスを知りたくて出向している弁護士よりかは何倍も頼りになるでしょう。
次回は、最後、「組織内弁護士のキャリアパスその3」です。
組織内弁護士のキャリアパスその1
PayPayネタはもう飽きてしまいました。
(と思っていたらまた100億円キャンペーン再開したんですね。完全に体力勝負になってきた感じがします。このレッドオーシャンの先には何があるのかな?)
今回は、組織内弁護士(インハウスロイヤー)のキャリアパスについて考えてみたいと思います(多分3回くらいに分けて書きます)。
弁護士大増員時代に入って以降、
最近はさまざまな多様なキャリアが生まれつつあるのではないかと思っています。
ざっくり言うと以下の5パターンではないかと。
・インハウス→法律事務所
・法律事務所→インハウス
・インハウス→ビジネス
・ビジネス→インハウス
・ずっとインハウス
司法制度改革の錦の旗の下に、弁護士が大増員されたことで、
昔より若手のお給料は明らかに下降傾向にあります。
そんなに皆ラクではないと思う一方で、キャリアの幅は着実に広がっています。
そうならざるを得なかった部分が多分に大きいですが、
業界全体としては、キャリアのロールモデル、つまり、
選択肢がたくさん出てきたわけで、それはそれでプラスなことなのかなと。
そして、それは社会全体にとってもそうなのではないかと思います。
インハウス人口としては、肌感ですが、60期代後半の先生がかなり多いです。
この世代は、就職氷河期で、事務所が採用を絞っているところが多かった。
今となっては、この道も悪くないとは思いますけど、
初めて社内弁護士に就職した当時は失敗した感が半端なかったですね。
やっぱり、法廷に立って、滔々と弁論するのが弁護士のイメージじゃないですか。
すごいクセが強くて、魅力的なボスの下で、ハアハア言いながら頑張るみたいな。
ただ、そんな格好いい仕事ばかりではないのが弁護士なわけですが笑。
弁護士の敵は、相手方ではなくクライアントという冗談がありますよね。
どうすれば、わがままなクライアントをコントロールできるのかという。
さて、業界別のインハウスロイヤーの人数でいうと、
IT→金融→商社(総合)の順でしょうか。
給料の高さでいうとおそらく逆で、
商社(総合)→金融(銀行、保険、証券)→ IT(GAFAはまた別でしょう)
の順だと思います。
メーカーは色んな会社があるので、これは会社次第と思います。
金融とITの間か、ITとどっこいどっこいみたいな印象です。
【組織内弁護士のキャリアパスその1】
→ インハウスからの法律事務所
インハウスからの法律事務所ってなんか大変そうというイメージがありましたが、
意外と成功している例を見聞きします。
所詮、会社の中で登りつめるのはかなり大変ですし、予算の少ない法務部門です。
現実的に天井(部長が役員に出世する見込み)が見えますよね。
そんな環境下で、ずっとその職場にいるのは若手インハウスにとってはあまりいい線とは思えません。だったら、なんかそれなりの専門分野を作って法律事務所に転職してしまいましょう(可能であれば自分で事務所を作ってしまいましょう)。
そっちの方が出世するよりはるかに儲かるんじゃないか!という話です。
ひと昔前までは、やっぱり事務所で修行しないと!みたいな流れがあったように思いますが、インハウスをそれなりにやっていると、そんなに違いって本当にあるのかな?というのが率直な感想です。
当然、すごく専門的な分野はありますし、そこは、社外の弁護士の領分ですが、最終的な判断とか、際のディティールの部分って、いろんな可能性がありすぎて、断定するのって専門家でも難しいですよね。つまり、具体的なリスクって何だっけ?そこに対して誰も保証できないけど、誰かが決めないといけないよねという部分です。
これは、法律の部分を離れた事実の収集と評価の部分、現場の肌感覚を知っているかどうか、その上で役に立つ意見を言えるかどうか(現場と上からの信頼)というところに収斂されるように思われます。
だからこそ、この現場の肌感覚を持った上で、専門性も持っている弁護士ってこれから重宝されそうな気がしていて、【インハウス→法律事務所】ってけっこう可能性あるんじゃないかなと思っています。
おそらく、今後たくさん出てくるんじゃないかなと思っています(すでにそういう例が出てきていますよね)。
次回、【組織内弁護士のキャリアパスその2】に続きます。
法務における資格の有無その2
年末に思いつきで始めたこのブログですが、何かを継続するのって大変ですね。
長年ブログをやられている方、、本当にすごいなと尊敬します。
さて、法務における資格の有無について。
前回は、1【人脈力=観察力】2【想像力=表現力】ということについて書きました。
最後は、3【仕事力=総合力】という点について。
もう、ここまで来ると、資格があるとか、ないとか、そういう話ではなくなるのではないかと思います。
「仕事力」、特にリーガル的な視点を強調してしまうと、めちゃくちゃ切れる頭と、抜群の法律知識と、案件をバンバンさばく事務処理能力。
議論になったら、聴衆を巻き込むような圧倒的な弁論の力によって、自らが思う方向にことを進ませていく。このようなことをイメージされている方がいるとしたら、それは違うのではないかと思います(いないとは思いますけど)。
当然、頭の切れ、正確な知識、高度の事務処理能力を持っているに越したことはありませんが、それではコトは動かないわけです。普通に、ごくごく自然に考えたら、こうなるはずだ!というセオリーがあったとしても、なぜだか知らないけれども、そのとおりにはならない。むしろ、そうはならないようにできている。
それが仕事というか、人間社会の妙というか、面白い部分ですよね。全く合理的な反応をしないわけです。
たとえば、ダチョウ倶楽部のネタでもありますよね。
押すなよ〜?押すなよ〜?って言ったら、他の二人が押してくれるじゃないですか。
押さなかったら、そのことを突っ込んでそれが笑いに変わる。そういうセオリーがありますが、しかし、それは「お笑い」という約束事の中だからこそ成立するわけであって、限られたパイの中で、仕事と評価とそれに見合うフィーを追求する集団の中では、機能しないように思えるわけです(お笑い芸人の中でも、この原理は同じだと思います)。
つまり、皆他人のことなんて興味ないんです。だって、自分が生きるのに必死なので、
そんな余裕なんてない。むしろ、他人がやっていることをサポートすることで自分が不利になるんじゃないか。この一言、一挙手一投足にはリスクがあるんじゃないか。
そういうようなことを恐れてしまうわけです。あるいは純粋に自分のことにしか興味がないのか笑
仕事には必ず相手が伴います。相手の立場や、理解力に価値観、自分との距離感、自身の存在感や相手に対する理解力、その他色々な要素があいまって自分の仕事を形作るわけです。たとえば、段取り、イメージの共有、自分が言いたいことを相手に伝えられるだけの準備、そのための人間関係の構築、この辺りの泥臭い、ヒューマンビーイングな仕込みが必要になります。
より端的に言えば、上司を動かせるかどうか、同僚に理解してもらえるかどうか、他部署にも協力してもらえるかどうか、最終的に妥当な方向に周囲を向かわせるだけの見立てや確信を持っているかどうか。
つまり、コミュニケーション能力とそれを円滑に進めるための準備と気持ちに尽きるのではないかと思われ、これはライセンスの有無や、社歴の長短では決まらない仕事の本質なんじゃないかと思います(もっと言えばこれはAIには代替できない人間だけが使える能力なんじゃないかと)。
ここまで見てくると、資格の有無ってあまり関係がないんですよね。転職の際の引き合いの多さや、採用における考慮要素にはなるかもしれませんが、実際にその組織に属したときの具体的なパフォーマンス、アウトプットという点では大差のない要素だと思います。
以上、法務における資格の有無についての考察でした。
実際の仕事力というところでいうと、本当に意味のない比較になってしまいましたね笑
無論、ライセンスを持っていることにはそれなりの価値があるとは思います。社外での人脈作りや、法的な紛争が起きたときに法廷の中に入れるかどうか(代理できるかどうか)という点で(インハウスが会社の訴訟代理をする局面はそう多くはないと思いますが)。
しかし、社外での人脈ということでいえば、別に資格がなくても、その裾野は広がっているわけです。特に、ロースクール制度が導入されて以降、ロースクール生の中でも司法試験に合格した人、そうでない人が出てきます。しかし、皆同じ時期に真剣に法律を学んだ仲間なわけです。だから、同級生が弁護士だったり、裁判官だったり、検察官だったり、パラリーガルだったり、法務部員だったり、行政の人だったり、そしてビジネスパーソンだったりするわけなので、足元を掘って見ると、意外にもネットワーキングには事欠かないのではないかと。
結局、その立場や経験、自らに与えられた役割を、どのように活かすかは個々人の振る舞いによるわけで、あと、20年、30年経ったときの、あるべき/ありたい自分に向けてどんだけ頑張ってるか、どんだけ知恵を絞ったか、ただただそこに尽きるような気がします。
だって、小学校しか出ていない田中角栄さんは日本の総理大臣になったわけじゃないですか。中学校しか出ていない松下幸之助さんは日本を代表する会社のファウンダーになったじゃないですか。彼らが持っていたのは、ライセンスでもなんでもなく、未来のあるべき自分や、ありたい理想像に向けて、日夜精進し、目の前の人に可能な限りの心を砕きながら、自分がやりたいことを着実に成し遂げようとする「意志」だったわけで。
それを考えると、また明日から頑張ろうっていう気持ちが湧いてきますよね。
所詮、「はあ、、、月曜の仕事行きたくないや(*´-`)」という気持ちとの戦いだったりするわけで笑
PayPayキャッシュバックの景表法上の整理その3
仕事始めの週は、色々とモチベーションが上がらないですね。
ただ、昨日、12月にペイペイ支払いで購入した家電の入金があったので、
少しテンションが上がっています笑
私個人は、全額キャッシュバックに当選できませんでしたが、
この前、たまたま参加した飲み会で全額キャッシュバックに当選した人を見つけました。やっぱりリアルにあるんですね。安心しましたww
ただ、色々なルール違反を理由に、キャッシュバックが取り消される例も多発しているようです。当然、このようなモラルハザードが起きうるであろうことは、キャンペーン前にリスクとして指摘されていたように思いますので、PayPay的には想定の範囲内なのではないかと思います。
もっとも、付与取消しに鬼クレームを入れるユーザーもたくさんいるはずですし、取消しが本当に正しいものだったのかどうか微妙な例も相当数出てくるでしょうから、その対応にかなりの工数がかかるのではないかと思います。
また、これにより、せっかく獲得したユーザーが一定数離れることが予想されるので、
キャンペーンの終わり方としては、少しもったいない気がしますね。
さて、ペイペイキャンペーンの景表法上の整理その3です。
前々回は、景品規制の概要を
⇩
前回は、20%キャッシュバックについて一応の整理をしました。
⇩
前回の結論としては、ペイペイ20%キャッシュバックは、景表法上の「総付景品」に該当し、10分の2ルールが適用されるということになりました。
今回は、なぜPayPayは、20%キャッシュバックについて「値引き」構成を
採用しなかったのかということについて(勝手に)想像してみたいと思います。
「値引き」構成で20%キャッシュバックを説明できるのであれば、
キャッシュバック率を決済金額の10分の2に収める必要がなくなり、
より高還元のキャッシュバック率で施策が打てたようにも思えるからです。
前回の記事では、値引きルールの構成について、ざっくりと述べましたが、
少しその詳細を見ていきたいと思います。
値引きルールを詳細に定めているのは以下の消費者庁長官の決定です。
「告示の運用基準について」(H26.12.01消費者庁長官決定)
この決定に、以下のような記述があります(運用基準6(3)ア、イ)。
『次のような場合は、原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上 の利益」に当たる。
ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減 額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)
(例 「×個以 上買う方には、○○円引き」、「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、 「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、「×回御利用していただ いたら、次回○○円割引」)。
イ 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払った代金につい て割戻しをすること(複数回の取引を条件として割り戻す場合を含む。)(例「レシ ート合計金額の○%割戻し」、「商品シール○枚ためて送付すれば○○円キャッシュ バック」)。』
今回のキャンペーンは、ペイペイ決済を利用したユーザーに対して、一律20%のキャッシュバックをするということですので、支払った代金について「割戻し」をすることになります。なので、上記下線のイに当てはまりそうです。
したがって、あとは「正常な商慣習に照らして」OKといえるかどうかが問題になります。
この「正常な商慣習に照らして」という要件ですが、はっきりいって、どれくらいの割戻しであればOKなのかという明確な基準はありません。行き過ぎた「割戻し」が行われないように設定したバスケット条項的な縛りです。ただ、総付景品のルールが、10分の2であるため、10分の2ルールから余り離れないレベル感の割戻し(例えば、25%〜35%)であれば、「正常な商慣習に照らしても」問題ない気がします。
一方、上記の運用基準を読んでいくと、「値引き」に整理されない例として、以下のような記述があります(運用基準6(4)ア)。
ア 対価の減額又は割戻しであっても、懸賞による場合、減額し若しくは割り戻した金銭 の使途を制限する場合(例 旅行費用に充当させる場合)又は同一の企画において景品 類の提供とを併せて行う場合(例 取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選 択させる場合)
本件についてあてはめてみると、20%キャッシュバックは、「総付」で一定の条件を満たせば、誰でももらえるものなので、「懸賞」には該当しません。
また、「使途の制限」についても、基本的には、ペイペイが利用できるお店であれば、キャッシュバックされたボーナスで商品の購入ができるため当たらなそうです。ただ、ペイペイを利用できるお店が、ペイペイ決済利用時に比べて激減していたような場合は、実質的にペイペイの使途が制限されてしまうので、こちらの要件に当てはまってしまう可能性はあります。もっとも、現時点では、ペイペイ決済が可能な店舗が激減したという情報はないので、ここはあまり問題にならないでしょうね。
「同一の企画において景品等の提供とを併せて行う場合」、おそらく、値引きという整理を取らなかったのは、このルールが理由だと思います。
すなわち、今回のキャンペーンは、①20%の一律キャッシュバックだけではなく、②40分の1の確率で全額キャッシュバック、③20分の1の確率で全額キャッシュバック、④10分の1の確率で全額キャッシュバックという4本立ての企画から成り立っています。そして、後述のように②から④のキャンペーンは、「懸賞」に該当するので、割戻しの整理ができず、「景品」に該当してしまいます。
では、キャンペーン①から④「同一の企画」といえるかどうかという点ですが、消費者から見てどうか?ということが景表法の趣旨なので、「100億円あげちゃうキャンペーン!!」と銘を打った上で、スタートも終わりも同じタイミングのキャンペーンをやっている以上、一般の消費者から見れば①から④は当然に「同一の企画」ですよね。景品提供の分類は景表法上違うとしても。
ただ、キャンペーン①から④をそれぞれ別々のタイミングでリリースしていたのであれば(例えば1、2か月おきにリリースするなど)、異なる結論になったのかもしれません(一連の企画ではあるが、異時の企画として)。
しかし、それではキャンペーンとしてのフックが弱くなってしまいます。ちまちまと25億円還元を4回に分けるよりかは、まとめて「100億円キャッシュバック!!」とした方が消費者へのインパクト、話題性が強いのは明らかです。
以上のように見てくると、キャンペーン②から④を併用したことが、20%キャッシュバックを「値引き」整理しなかった理由であると推察できます。
ただ、「懸賞」を併用せずに、100億円全部を20%キャッシュバックに当てれば、「値引き」という整理ができたのではないかという疑問は残ります。
しかし、そうすると、キャッシュバックの原資全額をPayPay単独で用意しないといけないことになりますし、PayPay単独で囲っているユーザーには限界があるのに対し、親会社であるYahooやソフトバンクは多数のユーザーを囲っています。
これらと連携することで、キャンペーンを打つ面を大きくし、PayPayにユーザーを最大限取り込んだ方が100億円を投じる目的にかなうと思います。
以上から、景表法上の整理としては、キャンペーンを併用し、あるいは同時展開したために「値引き」整理ができなかったという結論になりそうですが、もっと突っ込んで考えると、キャンペーンを大きくするために、あえて「値引き」構成を採らなかった、そのようなビジネス判断をあえてしたのではないかとも推察できます。
以上が、PayPayが20%キャッシュバックキャンペーンにおいて「値引き」構成を取らなかった理由なのではないかと思います。
そして、キャンペーンの面や、フックを強く、かつ、大きくするために、あえて、単発のキャッシュバック率を上げる方向での「値引き」構成を採らずに、総付景品とその他の懸賞を組み合わせて訴求を強めるというのもキャンペーンの手法として効果的なことがありうるということが導けそうです。
「キャンペーン②から④の整理」
キャンペーン②は、一般懸賞、
キャンペーン③は、Yahooと共同で行なっているので、共同懸賞、
キャンペーン④も、ソフトバンクと共同で行なっているので、共同懸賞に分類されそうです。
そして、一般懸賞も共同懸賞も売上総額の2%から3%の景品でなければならないというルールがあるため、キャンペーン②から④がこのルールの枠内に収まるように調整する検討もされていたはずです。
もっとも、この売上総額は、キャンペーン中に、PayPay決済を利用した全ての総額を指すのか、個々のキャンペーンが適用される場合の総額を指すのかは、議論になりそうです。
この辺りの議論をどのように整理したのだろうかということは、次回(多分、ペイペイネタは最後です)またもや勝手に考えていきたいと思います。
PayPayキャッシュバックの景表法上の整理その2
明けましておめでとうございます。
ついに、新年が始まってしまいましたね。
さて、ペイペイのキャッシュバックCPの景表法上の整理その2です。
前回の記事では、景品規制の概要を書きました。
今回は、それを以下のCPにあてはめた場合にどのような整理がされるのかを考えてみたいと思います。
【ペイペイキャッシュバックCPの概要】
まず、今回のペイペイキャッシュバックの概要について見ていきたいと思います。個人的には、20%残高キャッシュバックばかりがクローズアップされた観がありますが、全部で以下の4つのキャンペーンからなっています。
「キャンペーン①」
PayPay決済利用毎に20%戻ってくるキャンペーン
→ ペイペイ加盟店において、ペイペイ決済を利用して商品を購入した人全員に購入金額の20%をキャッシュバックするキャンペーンです。
*キャンペーンの主催者はPayPay株式会社の1社です。
「キャンペーン②」
PayPay決済利用毎に抽選にて40回に1回の確率で全額(10万円相当まで)戻ってくるキャンペーン
→ペイペイ加盟店において、ペイペイ決済を利用して商品を購入した人のうち、40分の1の確率で全額(10万円相当まで)をキャッシュバックするキャンペーンです。
*キャンペーンの主催者はPayPay株式会社の1社です。
「キャンペーン③」
Yahoo!プレミアム会員ならPayPay決済利用毎に抽選にて20回に1回の確率で全額(10万円相当まで)戻ってくるキャンペーン
→ペイペイ加盟店において、ペイペイ決済を利用して商品を購入した人がYahoo!プレミアム会員である場合は、20分の1の確率で全額(10万円相当まで)をキャッシュバックするキャンペーンです。
*キャンペーンの主催者は、ヤフー株式会社とPayPay株式会社の2社です。
「キャンペーン④」
ソフトバンクまたはワイモバイルユーザーならPayPay決済利用毎に抽選にて10回に1回の確率で全額(10万円相当まで)戻ってくるキャンペーン
→ペイペイ加盟店において、ペイペイ決済を利用して商品を購入した人がソフトバンクまたはワイモバイルユーザーである場合は、10分の1の確率で全額(10万円相当まで)をキャッシュバックするキャンペーンです。
*キャンペーンの主催者は、ソフトバンク株式会社、PayPay株式会社の2社です。
各CPの細かい条件や詳細は以下に詳しいです。
やはり、100億円もの大金を投じたキャンペーンだけあって、
誤解のないように、細やかに詳細を説明しています(この辺りのリーガルマターはYahooの法務の方が対応したんでしょうね)。
【各キャンペーンの整理】
「キャンペーン①」
まず、キャッシュバックの20%が、景表法上の「景品等」に該当するかどうかですが、キャッシュバックされたペイペイ残高は、ペイペイ決済を利用しないともらうことができないので、キャッシュバックは、顧客誘引の手段として使われています。
また、ペイペイ決済の利用を条件としているため、取引付随性も認められるでしょう。
さらに、キャッシュバックされたペイペイ残高を使えば、ペイペイ加盟店で買い物ができるため、キャッシュバックが経済上の利益であることにも疑いはないと思います。よって、三要素を満たすので「景品等」とみることができます。
加えて、ペイペイ加盟店でペイペイ決済を使って、商品を購入すれば全員にキャッシュバックがあるので、「総付景品」と整理して問題ないかと思います。
実際に、PayPay側の説明を見ても、キャンペーン詳細の説明の中で、自ら「景品」と表現しているため、PayPayとしても、キャンペーン①を総付景品と考えていたことが理解できます。
したがって、キャンペーン①は、総付景品として、取引価額の10分の2の範囲で行う必要があり、購入金額の20%キャッシュバックは、この範囲内であることは明らかです。
もっとも、20%のキャッシュバックは総付景品ではなく、「値引き」という整理もできたのではないかと思います。PayPayとしては、なぜこのような整理をしなかったのでしょうか。
仮に値引きという整理ができれば、景品規制の上限に服することはないので(正常な商慣習という限定はかかりますが)、もっと尖ったキャンペーンが打てたのではないか。なぜPayPayはそのような整理をしなかったのかを勝手に想像してみたいと思います。
* 値引き構成
ここで、景表法における値引き構成とは何かということについて説明します。
これから行うキャンペーンが、「顧客誘引目的」、「取引付随性」、「経済上の利益」の三要件を満たし、「景品等」にいったんは当てはまるとしても、「正常な商慣習に照らして値引きと認められるもの」については、最終的に「景品等」とは考えず、したがって、景品規制に服さないというルールです。
法律と告示と行政規則が入り混じって成り立っているルールですが、以下の建付けから成り立っています。
① 内閣総理大臣に「景品」内容の指定を委任(景表法2条3項)
「この法律で「景品類」とは、(略(三要件))であつて、内閣総理大臣が指定するもの をいう。」
② ①の委任に基づき以下の告示(H21.08.28公正取引委員会告示13号)
「ただし,正常な商慣習に照らして値引(略)と認められる経済上の利益は、含まない。 」
③ ②の告示の運用基準を示す(H26.12.01消費者庁長官決定)
「『値引と認められる経済上の利益』に当たるか否かについては、当該取引の内容、その 経済上の利益の内容及び提供の方法等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。」
なぜ、景品に該当するとしても、OKとされているかという理由について説明します。すなわち、商品の値引きとは、商品の金額を下げることなので、その結果として自社商品の「価格」そのもので勝負するということです。つまり、価格はサービスの要素そのものになるため、単なる景品ではなく、低価格というコンテンツで勝負しているといえるので、景表法の「市場保護」、「消費者保護」の趣旨が機能しづらい状況になるのですね。
要は、価格を下げるための経営努力をしているんだから、金の力だけでお客さんを掴んだわけじゃないのです!お客さんはその価格に魅力を感じたんだから、安かろう悪かろうであれども、それはお客さんの判断なのです!という理屈が立ちやすいということです。したがって、景表法上、この「値引き」については景品規制に服さないものとされています。
* なぜ値引き構成を取らなかったのか。
上記のように、値引き構成を採れば、景品規制(景品の上限規制)に服することはなくなります。しかし、なぜPayPayはこれを採用しなかったのか。
この点について、次回記事を書いていきたいと思います(遅筆ですみません)。
PayPayキャッシュバックの景表法上の整理その1
ペイペイのキャッシュバックキャンペーンですが、早くも12月の中旬には終了してしまいました。キャッシュバック欲しさに ペイペイに登録をしてお買い物をされた方も多いのではないかと思います。
さて、このようなキャッシュバックキャンペーンやポイント還元キャンペーンをやる際に問題になるのが、景品表示法の景品規制です。
「景品規制の趣旨」
ざっくりいうと、景品規制とは、あまりに高額な商品やポイント還元などをやり過ぎてはいけませんよ!というルールです。
その理由は二つあります。まずは、①消費者の保護、次に、②市場の保護という観点です。
まず、①ですが、あまりに高額な景品の提供をOKにしてしまうと、それに釣られて取引の内容や品質をよくよく考えることなしに購入してしまい、損をする人が出てきてしまいます。だから、高額な景品は出してはいけませんよ!ということです。
次に、②ですが、あまりに高額な商品、ポイントでユーザーをかき集めることをOKにしてしまうと、結局、お金を持っている企業に人が流れてしまい、結果的にサービスの内容や品質の勝負ではなく、景品がどれだけお得かという競争になり、モノやサービスの品質競争が働かなってしまいます。結果、お金を持っている会社が勝ち、それよりも本当は優れたサービスを提供している会社が勝てなくなってしまいます。つまり、業界のイノベーション自体が止まってしまうということです。体力の少ない企業だからこそ、サービスの内容や品質、そしてアイデアにこだわって、大きな企業と戦えるようにしておかないと、業界全体の革新が進まなくなってしまいますよね。
「景品規制の概要」
上記の趣旨から、景品規制は以下のような構造になっています。
① 「景品類」に該当する場合は景品提供のパターンごとに制限がかかる
② 一般懸賞パターンの場合の規制
③ 共同懸賞パターンの場合の規制
④ 総付景品パターンの場合の規制
それでは、個別に見ていきましょう。
① 「景品類」に該当する場合は景品提供のパターンごとに制限がかかる
景品類に当たるかどうかは、以下の3要素により判断され、3要素全部を満たす必要があります。
→ 顧客誘引の手段かどうか
ざっくりいうと、「景品」をあげる目的がユーザーを獲得することにあるかどうかです。
たとえば、ユーザー登録してくれたら、ポイントを2倍あげるというキャンペーンなどです。逆に、ゴミ掃除のボランティアに参加してくれた謝礼として、QUOカードをあげたとしても、それは顧客誘引の手段とはいえないですよね。
→ 取引に付随して提供するものかどうか
ざっくりいうと、その事業者と取引をしないと、その景品がもらえないかどうかです。
たとえば、ポイントをもらうためには、必ずこの店舗でモノを買わないといけない場合です。逆に、その店舗でモノを買わなくてもプレゼントがもらえる場合は、取引に付随しているとは言えない可能性が高いです。
→ 経済上の利益に当たるものかどうか
ざっくりいうと、もらえる「景品」がお金になるかどうかです。
たとえば、非売品のグッズのように市場で値段がついていないものでも、メルカリなどのフリマサービスに出品すれば売れるような場合、経済上の利益に当たることになります。逆に、フリマサービスに出品しても、価がつかないような場合は、それを経済上の利益とは言うのは難しいことになります。
② 一般懸賞パターン
ざっくりいうと、ある会社の商品を買ったお客さん限定で、くじ引きや、クイズなどを行って、商品券などをプレゼントするような場合です。この場合、③の共同懸賞とは違って、プレゼントを用意するコストを一つの会社で負担しているのが特徴です。逆に、複数社でそのコストを分担するような場合は、③の共同懸賞パターンになります。一般懸賞にあたる場合の景品の上限は以下のとおりです。
→取引価額が5,000円未満の場合
取引価額の20倍が上限
→5,000円以上の場合
10万円が上限
➕
そのキャンペーンで配る景品の総額がキャンペーンの売上総額(予定)の2%以内であることが求められます。
③ 共同懸賞パターン
ざっくりいうと、商店街の協賛で、加盟店で商品を買ったお客さん限定に、くじ引きや、クイズなどを行って、商品券をプレゼントするような場合です。この場合、一般懸賞と違って、プレゼントを用意するコストを複数社で負担しているのが特徴です。
共同懸賞にあたる場合の景品の上限は以下のとおりです。
→取引価額に関わらず、一律30万円まで。
➕
そのキャンペーンで配る景品の総額がキャンペーンの売上総額(予定)の3%以内であることが求められます。
④ 総付景品パターン
ざっくりいうと、その商品を買ってくれたお客さんのうち、5000円以上の買い物をしたお客さんに対しては全員QUOカードをプレゼントするような場合です。5,000円以上の買い物をしても全員がプレゼントをもらえるわけではない場合は、上記の懸賞に分類されます。
総付景品にあたる場合の景品の上限は以下のとおりです。
→取引価額が1,000円未満の場合
200円まで
→取引価額が1,000円以上の場合
取引価額の10分の2まで
※ いわゆるオープン懸賞は②、③、④のどれにも当たりません。オープン懸賞とは、取引の成立や一定の取引を誘引させるマイルストンプ(来店)が、プレゼントを配布する条件になっていないということです。この場合、オープン懸賞で提供されるプレゼントは、そもそも「景品」ではないという整理になります。ですので、オープン懸賞で配布できるプレゼントに金額の制限はありません。
※ 上記②、③、④の規制よりもさらに厳しい業界ごとの特別ルールがあるので、キャンペーンを行う取引がどのような取引なのかには注意する必要があります。
もっと詳細を知りたいという方は、以下の消費者庁のページにさまざまな資料があり、そちらをご覧ください。
「ペイペイの場合はどのように考えるのか」
さて、ではペイペイの場合はどのようなロジックで、100億円ものお金をキャンペーンに投じることができたのかということを整理していきたいと思います。この点については、次回の記事「ペイペイ20%キャッシュバックCPの景表法上の整理その2」で書きたいと思います。
2018年も今日で終わりますね。
今年やり残したこと、来年やりたいこと、いろいろな思いがよぎるところではありますが、一歩でも前に進んでいければと思います。
法務におけるリスクの見極め方
法務の仕事をしていると、事業部から今まで全くタッチしたことがない領域の相談を受けることがままあります。
この時のファーストインプレッション(事業部から見た)って結構大事だなと思います。
せっかく相談してくれたのだから、何かお土産を持っていってもらいたい。
自分を頼ってきてくれているのだから、この担当者に応えたい。
そういう思いから気がはやってしまうのですが、適当なことを言ってしまって空手形を切るわけにもいかない。
かと言って、全件持ち帰って検討させてもらいたいというのは、
せっかく顔を突き合わせてMTGしている意味がない。
こういうときって、少ない経験の中から引出しを漁ってみるのですが、大してマッチする材料がなかったりするんですよね。
知らないもの、経験したことがないものって、何がリスクで、何が大丈夫なのかということが把握しづらい。
だから、過剰に保守的なアドバイスをしてしまい、結果、事業部に本来不要な検討を強いることがあるのではないかと思います。
ただ、後から振り返ってみれば、全然大したことではなかったりもする。
かといって、慎重にならざるを得ない領域(独禁法、特許、各種業法など)もある。
この得体の知れないリスクや不安感とどう向き合えばいいのか、
そのことが原因で、本来取り得たはずのオプションを検討の遡上から外してしまい、
せっかくのビジネスチャンスを逃してしまうことは避けなければなりません。
リスクを適切にサイジングし、事業部も(その上自分自身も)安心できるようなアドバイスをするにはどうすれば良いのか。
結論としては、前提となる事実、背景をできる限り多く手に入れる事だと思います。
そして、そのスキームを取ったときに起きうるネガティブな反応や事象を可能な限り想像してみることだと思います。具体的に考えていけばいくだけ、リスクの色や形が明らかになります。経験則に照らしてみて、そんなに大したことではないんじゃないかというぼんやりとした安心感のようなものも芽生えてきます(逆にこれはやばいというのも当然あります)。
例えば、会社のホームページを刷新するためのイメージ写真を制作会社に委託して作ってもらうとします。
金額は200万円くらいだとしましょう。
プロのカメラマンにお願いをし、恵比寿とか広尾とかでくつろいでそうなモデルさん達を5人くらい、プロダクションを通して用意してもらう。当社としては、当然、200万円ものお金をかけて、委託をし、お願いをしたんですから、写真の著作権はこちらに欲しいと思うわけです。あとあと使うかもしれないし。しかし、制作会社は、これを頑として拒否する。
「権利は御社には移転しません。著作物の使用許諾を弊社が与えているだけなんです。モデルの起用は、弊社が再委託したプロダクションがやっている。著作権とは別のプロダクションのパブリシティの問題もある。なので、権利が御社に移るという条件は呑めません。」
担当としては、著作権やその他の権利が全部取得できないことが何か法律的にやばいことなんじゃないかと考えます。そこで法務に相談に来る。
自社のコーポレートページ(いわば会社の顔)に使う宣材写真の著作権を当社が保有していないこと、そうであるにも関わらず、200万円というコストをかけていること。それはリスクと言えるか、リスクだとしてどのようなリスクか。このように、抽象的に考えると何だかよく分かりません。
しかし、具体的に考えてみると答えは簡単です。そもそも今のHPで使っている写真を今後も再使用する可能性があるのか。いつまで使う見込みなのか。平均するとどのくらいの期間使用するものなのか。また、外部に向けて再使用した事実があるのか。そして、子会社などの他社の案件に使わせたことはあるのか。まずはこれを確認します。
結果、再使用した事実は見聞きした事がない。2〜3年おきに刷新している。子会社は子会社のコーポレートイメージがあるので、当社のものをそのまま使うことはない。
という事実が分かります。そうすると、当社としては、何年かの間、HPの顔としてその写真を使用できる許可をもらえば足りるわけです。つまり、権利の所在にこだわらなくても、本来の目的を達成できることがわかりました。したがって、後は当社が企図した範囲、期間、利用方法でその宣材写真を使う事ができるのか、すなわち使用条件の問題に議論が定まります。そして、その使用条件に200万円を払うのが妥当なのかどうかという経済的な議論に収斂します。このようにして、この案件のリスクの本質が権利の所在ではなく、宣材写真の使用条件とそれに見合う価格というよりはっきりした形で認識する事ができるようになりました。また、本来の目的との関係で最低限必要なことは何なのかということを把握することができるようになりました。
このようにできる限り多くの事実を集め、具体的に想像してみることで、今やろうとしていることが持つリスクの実態が見えてきます。また、そのリスクとの関係でやるべきことと、やらなくてもよいことが見えてきます。当然、法務だけでは考える事が出来ない場合もたくさんあるので、そういうときは、遠慮することなく、現場の人の知恵も借りながら、具体的な局面をイメージし、そのイメージを現場の人と共有していくことで、得体の知れないリスクの正体を明らかにしていき、取るべきリスクと取るべきでないリスクを選別できるようになっていくのではないかと思います。
法務にとっても事業部にとっても、具体的な事実の把握や局面のイメージなしに、何となくのイメージだけで判断するという危険を回避することが可能となります。
というようなことをスムーズにできるようになりたいものです。
なかなかその場でやるとなると難しいのですがね笑。