若手インハウスのひとりごと

若手企業内弁護士の日々の仕事、勉強、法律のこと、今後のキャリアや業界のことを思うままに記すブログです。

法務におけるリスクの見極め方

法務の仕事をしていると、事業部から今まで全くタッチしたことがない領域の相談を受けることがままあります。

この時のファーストインプレッション(事業部から見た)って結構大事だなと思います。

せっかく相談してくれたのだから、何かお土産を持っていってもらいたい。

自分を頼ってきてくれているのだから、この担当者に応えたい。

そういう思いから気がはやってしまうのですが、適当なことを言ってしまって空手形を切るわけにもいかない。

かと言って、全件持ち帰って検討させてもらいたいというのは、

せっかく顔を突き合わせてMTGしている意味がない。

こういうときって、少ない経験の中から引出しを漁ってみるのですが、大してマッチする材料がなかったりするんですよね。

知らないもの、経験したことがないものって、何がリスクで、何が大丈夫なのかということが把握しづらい。

だから、過剰に保守的なアドバイスをしてしまい、結果、事業部に本来不要な検討を強いることがあるのではないかと思います。

ただ、後から振り返ってみれば、全然大したことではなかったりもする。

かといって、慎重にならざるを得ない領域(独禁法、特許、各種業法など)もある。

この得体の知れないリスクや不安感とどう向き合えばいいのか、

そのことが原因で、本来取り得たはずのオプションを検討の遡上から外してしまい、

せっかくのビジネスチャンスを逃してしまうことは避けなければなりません。

 

リスクを適切にサイジングし、事業部も(その上自分自身も)安心できるようなアドバイスをするにはどうすれば良いのか。

結論としては、前提となる事実、背景をできる限り多く手に入れる事だと思います。

そして、そのスキームを取ったときに起きうるネガティブな反応や事象を可能な限り想像してみることだと思います。具体的に考えていけばいくだけ、リスクの色や形が明らかになります。経験則に照らしてみて、そんなに大したことではないんじゃないかというぼんやりとした安心感のようなものも芽生えてきます(逆にこれはやばいというのも当然あります)。

 

例えば、会社のホームページを刷新するためのイメージ写真を制作会社に委託して作ってもらうとします。

金額は200万円くらいだとしましょう。

プロのカメラマンにお願いをし、恵比寿とか広尾とかでくつろいでそうなモデルさん達を5人くらい、プロダクションを通して用意してもらう。当社としては、当然、200万円ものお金をかけて、委託をし、お願いをしたんですから、写真の著作権はこちらに欲しいと思うわけです。あとあと使うかもしれないし。しかし、制作会社は、これを頑として拒否する。

「権利は御社には移転しません。著作物の使用許諾を弊社が与えているだけなんです。モデルの起用は、弊社が再委託したプロダクションがやっている。著作権とは別のプロダクションのパブリシティの問題もある。なので、権利が御社に移るという条件は呑めません。」

担当としては、著作権やその他の権利が全部取得できないことが何か法律的にやばいことなんじゃないかと考えます。そこで法務に相談に来る。

 

自社のコーポレートページ(いわば会社の顔)に使う宣材写真の著作権を当社が保有していないこと、そうであるにも関わらず、200万円というコストをかけていること。それはリスクと言えるか、リスクだとしてどのようなリスクか。このように、抽象的に考えると何だかよく分かりません。

 

しかし、具体的に考えてみると答えは簡単です。そもそも今のHPで使っている写真を今後も再使用する可能性があるのか。いつまで使う見込みなのか。平均するとどのくらいの期間使用するものなのか。また、外部に向けて再使用した事実があるのか。そして、子会社などの他社の案件に使わせたことはあるのか。まずはこれを確認します。

 

結果、再使用した事実は見聞きした事がない。2〜3年おきに刷新している。子会社は子会社のコーポレートイメージがあるので、当社のものをそのまま使うことはない。

という事実が分かります。そうすると、当社としては、何年かの間、HPの顔としてその写真を使用できる許可をもらえば足りるわけです。つまり、権利の所在にこだわらなくても、本来の目的を達成できることがわかりました。したがって、後は当社が企図した範囲、期間、利用方法でその宣材写真を使う事ができるのか、すなわち使用条件の問題に議論が定まります。そして、その使用条件に200万円を払うのが妥当なのかどうかという経済的な議論に収斂します。このようにして、この案件のリスクの本質が権利の所在ではなく、宣材写真の使用条件とそれに見合う価格というよりはっきりした形で認識する事ができるようになりました。また、本来の目的との関係で最低限必要なことは何なのかということを把握することができるようになりました。

 

このようにできる限り多くの事実を集め、具体的に想像してみることで、今やろうとしていることが持つリスクの実態が見えてきます。また、そのリスクとの関係でやるべきことと、やらなくてもよいことが見えてきます。当然、法務だけでは考える事が出来ない場合もたくさんあるので、そういうときは、遠慮することなく、現場の人の知恵も借りながら、具体的な局面をイメージし、そのイメージを現場の人と共有していくことで、得体の知れないリスクの正体を明らかにしていき、取るべきリスクと取るべきでないリスクを選別できるようになっていくのではないかと思います。

法務にとっても事業部にとっても、具体的な事実の把握や局面のイメージなしに、何となくのイメージだけで判断するという危険を回避することが可能となります。

 

というようなことをスムーズにできるようになりたいものです。

なかなかその場でやるとなると難しいのですがね笑。