PayPayキャッシュバックの景表法上の整理その3
仕事始めの週は、色々とモチベーションが上がらないですね。
ただ、昨日、12月にペイペイ支払いで購入した家電の入金があったので、
少しテンションが上がっています笑
私個人は、全額キャッシュバックに当選できませんでしたが、
この前、たまたま参加した飲み会で全額キャッシュバックに当選した人を見つけました。やっぱりリアルにあるんですね。安心しましたww
ただ、色々なルール違反を理由に、キャッシュバックが取り消される例も多発しているようです。当然、このようなモラルハザードが起きうるであろうことは、キャンペーン前にリスクとして指摘されていたように思いますので、PayPay的には想定の範囲内なのではないかと思います。
もっとも、付与取消しに鬼クレームを入れるユーザーもたくさんいるはずですし、取消しが本当に正しいものだったのかどうか微妙な例も相当数出てくるでしょうから、その対応にかなりの工数がかかるのではないかと思います。
また、これにより、せっかく獲得したユーザーが一定数離れることが予想されるので、
キャンペーンの終わり方としては、少しもったいない気がしますね。
さて、ペイペイキャンペーンの景表法上の整理その3です。
前々回は、景品規制の概要を
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前回は、20%キャッシュバックについて一応の整理をしました。
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前回の結論としては、ペイペイ20%キャッシュバックは、景表法上の「総付景品」に該当し、10分の2ルールが適用されるということになりました。
今回は、なぜPayPayは、20%キャッシュバックについて「値引き」構成を
採用しなかったのかということについて(勝手に)想像してみたいと思います。
「値引き」構成で20%キャッシュバックを説明できるのであれば、
キャッシュバック率を決済金額の10分の2に収める必要がなくなり、
より高還元のキャッシュバック率で施策が打てたようにも思えるからです。
前回の記事では、値引きルールの構成について、ざっくりと述べましたが、
少しその詳細を見ていきたいと思います。
値引きルールを詳細に定めているのは以下の消費者庁長官の決定です。
「告示の運用基準について」(H26.12.01消費者庁長官決定)
この決定に、以下のような記述があります(運用基準6(3)ア、イ)。
『次のような場合は、原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上 の利益」に当たる。
ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減 額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)
(例 「×個以 上買う方には、○○円引き」、「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、 「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、「×回御利用していただ いたら、次回○○円割引」)。
イ 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払った代金につい て割戻しをすること(複数回の取引を条件として割り戻す場合を含む。)(例「レシ ート合計金額の○%割戻し」、「商品シール○枚ためて送付すれば○○円キャッシュ バック」)。』
今回のキャンペーンは、ペイペイ決済を利用したユーザーに対して、一律20%のキャッシュバックをするということですので、支払った代金について「割戻し」をすることになります。なので、上記下線のイに当てはまりそうです。
したがって、あとは「正常な商慣習に照らして」OKといえるかどうかが問題になります。
この「正常な商慣習に照らして」という要件ですが、はっきりいって、どれくらいの割戻しであればOKなのかという明確な基準はありません。行き過ぎた「割戻し」が行われないように設定したバスケット条項的な縛りです。ただ、総付景品のルールが、10分の2であるため、10分の2ルールから余り離れないレベル感の割戻し(例えば、25%〜35%)であれば、「正常な商慣習に照らしても」問題ない気がします。
一方、上記の運用基準を読んでいくと、「値引き」に整理されない例として、以下のような記述があります(運用基準6(4)ア)。
ア 対価の減額又は割戻しであっても、懸賞による場合、減額し若しくは割り戻した金銭 の使途を制限する場合(例 旅行費用に充当させる場合)又は同一の企画において景品 類の提供とを併せて行う場合(例 取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選 択させる場合)
本件についてあてはめてみると、20%キャッシュバックは、「総付」で一定の条件を満たせば、誰でももらえるものなので、「懸賞」には該当しません。
また、「使途の制限」についても、基本的には、ペイペイが利用できるお店であれば、キャッシュバックされたボーナスで商品の購入ができるため当たらなそうです。ただ、ペイペイを利用できるお店が、ペイペイ決済利用時に比べて激減していたような場合は、実質的にペイペイの使途が制限されてしまうので、こちらの要件に当てはまってしまう可能性はあります。もっとも、現時点では、ペイペイ決済が可能な店舗が激減したという情報はないので、ここはあまり問題にならないでしょうね。
「同一の企画において景品等の提供とを併せて行う場合」、おそらく、値引きという整理を取らなかったのは、このルールが理由だと思います。
すなわち、今回のキャンペーンは、①20%の一律キャッシュバックだけではなく、②40分の1の確率で全額キャッシュバック、③20分の1の確率で全額キャッシュバック、④10分の1の確率で全額キャッシュバックという4本立ての企画から成り立っています。そして、後述のように②から④のキャンペーンは、「懸賞」に該当するので、割戻しの整理ができず、「景品」に該当してしまいます。
では、キャンペーン①から④「同一の企画」といえるかどうかという点ですが、消費者から見てどうか?ということが景表法の趣旨なので、「100億円あげちゃうキャンペーン!!」と銘を打った上で、スタートも終わりも同じタイミングのキャンペーンをやっている以上、一般の消費者から見れば①から④は当然に「同一の企画」ですよね。景品提供の分類は景表法上違うとしても。
ただ、キャンペーン①から④をそれぞれ別々のタイミングでリリースしていたのであれば(例えば1、2か月おきにリリースするなど)、異なる結論になったのかもしれません(一連の企画ではあるが、異時の企画として)。
しかし、それではキャンペーンとしてのフックが弱くなってしまいます。ちまちまと25億円還元を4回に分けるよりかは、まとめて「100億円キャッシュバック!!」とした方が消費者へのインパクト、話題性が強いのは明らかです。
以上のように見てくると、キャンペーン②から④を併用したことが、20%キャッシュバックを「値引き」整理しなかった理由であると推察できます。
ただ、「懸賞」を併用せずに、100億円全部を20%キャッシュバックに当てれば、「値引き」という整理ができたのではないかという疑問は残ります。
しかし、そうすると、キャッシュバックの原資全額をPayPay単独で用意しないといけないことになりますし、PayPay単独で囲っているユーザーには限界があるのに対し、親会社であるYahooやソフトバンクは多数のユーザーを囲っています。
これらと連携することで、キャンペーンを打つ面を大きくし、PayPayにユーザーを最大限取り込んだ方が100億円を投じる目的にかなうと思います。
以上から、景表法上の整理としては、キャンペーンを併用し、あるいは同時展開したために「値引き」整理ができなかったという結論になりそうですが、もっと突っ込んで考えると、キャンペーンを大きくするために、あえて「値引き」構成を採らなかった、そのようなビジネス判断をあえてしたのではないかとも推察できます。
以上が、PayPayが20%キャッシュバックキャンペーンにおいて「値引き」構成を取らなかった理由なのではないかと思います。
そして、キャンペーンの面や、フックを強く、かつ、大きくするために、あえて、単発のキャッシュバック率を上げる方向での「値引き」構成を採らずに、総付景品とその他の懸賞を組み合わせて訴求を強めるというのもキャンペーンの手法として効果的なことがありうるということが導けそうです。
「キャンペーン②から④の整理」
キャンペーン②は、一般懸賞、
キャンペーン③は、Yahooと共同で行なっているので、共同懸賞、
キャンペーン④も、ソフトバンクと共同で行なっているので、共同懸賞に分類されそうです。
そして、一般懸賞も共同懸賞も売上総額の2%から3%の景品でなければならないというルールがあるため、キャンペーン②から④がこのルールの枠内に収まるように調整する検討もされていたはずです。
もっとも、この売上総額は、キャンペーン中に、PayPay決済を利用した全ての総額を指すのか、個々のキャンペーンが適用される場合の総額を指すのかは、議論になりそうです。
この辺りの議論をどのように整理したのだろうかということは、次回(多分、ペイペイネタは最後です)またもや勝手に考えていきたいと思います。