PayPayキャッシュバックの景表法上の整理その2
明けましておめでとうございます。
ついに、新年が始まってしまいましたね。
さて、ペイペイのキャッシュバックCPの景表法上の整理その2です。
前回の記事では、景品規制の概要を書きました。
今回は、それを以下のCPにあてはめた場合にどのような整理がされるのかを考えてみたいと思います。
【ペイペイキャッシュバックCPの概要】
まず、今回のペイペイキャッシュバックの概要について見ていきたいと思います。個人的には、20%残高キャッシュバックばかりがクローズアップされた観がありますが、全部で以下の4つのキャンペーンからなっています。
「キャンペーン①」
PayPay決済利用毎に20%戻ってくるキャンペーン
→ ペイペイ加盟店において、ペイペイ決済を利用して商品を購入した人全員に購入金額の20%をキャッシュバックするキャンペーンです。
*キャンペーンの主催者はPayPay株式会社の1社です。
「キャンペーン②」
PayPay決済利用毎に抽選にて40回に1回の確率で全額(10万円相当まで)戻ってくるキャンペーン
→ペイペイ加盟店において、ペイペイ決済を利用して商品を購入した人のうち、40分の1の確率で全額(10万円相当まで)をキャッシュバックするキャンペーンです。
*キャンペーンの主催者はPayPay株式会社の1社です。
「キャンペーン③」
Yahoo!プレミアム会員ならPayPay決済利用毎に抽選にて20回に1回の確率で全額(10万円相当まで)戻ってくるキャンペーン
→ペイペイ加盟店において、ペイペイ決済を利用して商品を購入した人がYahoo!プレミアム会員である場合は、20分の1の確率で全額(10万円相当まで)をキャッシュバックするキャンペーンです。
*キャンペーンの主催者は、ヤフー株式会社とPayPay株式会社の2社です。
「キャンペーン④」
ソフトバンクまたはワイモバイルユーザーならPayPay決済利用毎に抽選にて10回に1回の確率で全額(10万円相当まで)戻ってくるキャンペーン
→ペイペイ加盟店において、ペイペイ決済を利用して商品を購入した人がソフトバンクまたはワイモバイルユーザーである場合は、10分の1の確率で全額(10万円相当まで)をキャッシュバックするキャンペーンです。
*キャンペーンの主催者は、ソフトバンク株式会社、PayPay株式会社の2社です。
各CPの細かい条件や詳細は以下に詳しいです。
やはり、100億円もの大金を投じたキャンペーンだけあって、
誤解のないように、細やかに詳細を説明しています(この辺りのリーガルマターはYahooの法務の方が対応したんでしょうね)。
【各キャンペーンの整理】
「キャンペーン①」
まず、キャッシュバックの20%が、景表法上の「景品等」に該当するかどうかですが、キャッシュバックされたペイペイ残高は、ペイペイ決済を利用しないともらうことができないので、キャッシュバックは、顧客誘引の手段として使われています。
また、ペイペイ決済の利用を条件としているため、取引付随性も認められるでしょう。
さらに、キャッシュバックされたペイペイ残高を使えば、ペイペイ加盟店で買い物ができるため、キャッシュバックが経済上の利益であることにも疑いはないと思います。よって、三要素を満たすので「景品等」とみることができます。
加えて、ペイペイ加盟店でペイペイ決済を使って、商品を購入すれば全員にキャッシュバックがあるので、「総付景品」と整理して問題ないかと思います。
実際に、PayPay側の説明を見ても、キャンペーン詳細の説明の中で、自ら「景品」と表現しているため、PayPayとしても、キャンペーン①を総付景品と考えていたことが理解できます。
したがって、キャンペーン①は、総付景品として、取引価額の10分の2の範囲で行う必要があり、購入金額の20%キャッシュバックは、この範囲内であることは明らかです。
もっとも、20%のキャッシュバックは総付景品ではなく、「値引き」という整理もできたのではないかと思います。PayPayとしては、なぜこのような整理をしなかったのでしょうか。
仮に値引きという整理ができれば、景品規制の上限に服することはないので(正常な商慣習という限定はかかりますが)、もっと尖ったキャンペーンが打てたのではないか。なぜPayPayはそのような整理をしなかったのかを勝手に想像してみたいと思います。
* 値引き構成
ここで、景表法における値引き構成とは何かということについて説明します。
これから行うキャンペーンが、「顧客誘引目的」、「取引付随性」、「経済上の利益」の三要件を満たし、「景品等」にいったんは当てはまるとしても、「正常な商慣習に照らして値引きと認められるもの」については、最終的に「景品等」とは考えず、したがって、景品規制に服さないというルールです。
法律と告示と行政規則が入り混じって成り立っているルールですが、以下の建付けから成り立っています。
① 内閣総理大臣に「景品」内容の指定を委任(景表法2条3項)
「この法律で「景品類」とは、(略(三要件))であつて、内閣総理大臣が指定するもの をいう。」
② ①の委任に基づき以下の告示(H21.08.28公正取引委員会告示13号)
「ただし,正常な商慣習に照らして値引(略)と認められる経済上の利益は、含まない。 」
③ ②の告示の運用基準を示す(H26.12.01消費者庁長官決定)
「『値引と認められる経済上の利益』に当たるか否かについては、当該取引の内容、その 経済上の利益の内容及び提供の方法等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。」
なぜ、景品に該当するとしても、OKとされているかという理由について説明します。すなわち、商品の値引きとは、商品の金額を下げることなので、その結果として自社商品の「価格」そのもので勝負するということです。つまり、価格はサービスの要素そのものになるため、単なる景品ではなく、低価格というコンテンツで勝負しているといえるので、景表法の「市場保護」、「消費者保護」の趣旨が機能しづらい状況になるのですね。
要は、価格を下げるための経営努力をしているんだから、金の力だけでお客さんを掴んだわけじゃないのです!お客さんはその価格に魅力を感じたんだから、安かろう悪かろうであれども、それはお客さんの判断なのです!という理屈が立ちやすいということです。したがって、景表法上、この「値引き」については景品規制に服さないものとされています。
* なぜ値引き構成を取らなかったのか。
上記のように、値引き構成を採れば、景品規制(景品の上限規制)に服することはなくなります。しかし、なぜPayPayはこれを採用しなかったのか。
この点について、次回記事を書いていきたいと思います(遅筆ですみません)。