若手インハウスのひとりごと

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CCCの炎上事件とプライバシー・個人情報について考える:その2

さて、CCCの炎上事件とプライバシー・個人情報について考える:その2です。

前回までは、CCCが、令状なくユーザーの個人情報を開示していた点、そのことを利用規約に明示していなかった点について考えました。

今回は、全件に裁判官発付の「令状」を求めることが妥当なのか?ということについて考えていきたいと思います。

一連の報道を見て、最初に感じた違和感は、民間企業に来る全ての捜査関係事項照会に裁判官の令状を求めることって本当に可能なのか?そして、それは妥当なことなのか?ということでした。

これは、令状主義の精神から離れる部分かと思いますし、被疑者、被告人の人権を守るべき「弁護人」の立場からすると、違和感のあることなのかもしれません。

しかし、刑罰法規に該当しうる案件って、それこそ、ご近所トラブルから殺人事件までピンキリなわけです。その全てに令状を求めるというのは、なかなか難しいことなのではないかと思います。なかんずく、令状の適法性を判断するための司法人材、特に裁判官のリソースが全件令状対応できる程度に充実しているかというと、はなはだ疑問と言わざるをえません。やはりある程度絞らざるを得ないし、そのことを、警察も検察も分かっている。

2,000年代の司法制度改革で、法曹三者が増えたとはいっても、増えたのは所詮弁護士だけです。裁判官や検察官は大して増えていないわけで、国が「司法」というインフラにかけるリソースってやっぱり薄いんですよ。

むしろ、司法修習生の給費制廃止や国選弁護報酬が未だ低い水準に留まっていることからすると、全体として、削る方向に動いていっていると評価しても過言ではないかと。

そんなリソースが限られた中で、全件に令状がなければ、捜査の取っかかりもつかめないというのはそれはそれで酷なことではないでしょうか。

当然、今までの、裁判所や検察庁組織に沈殿する不純物の問題、警察機関の透明性や捜査官の法的なリテラシーにも責められるべき一端はあるかと思います。加えて、刑事司法という作用そのものには、国民を豊かにする経済的なメリットは一切ないわけです(生起したマイナスの事象に対して更にコストを投じるわけですから)。

 しかし、限られたリソースの中で、やむなく任意照会したかもしれない個々の事件もたくさんあるわけです。そして、それに対応せざるを得ないと判断してしまった一民間企業が叩かれなければならなかったのか?というのはやはり非常な違和感を感じるわけですね。

本来、叩くべきは、そのような任意の照会を行なっていた警察機関そのものですし、仮にやむなく行なっていたとしても、そのような慣行を許してしまった司法リソースの薄さ、ひいては国の関心の低さそのものが問題提起されるべきだったのではないかと思います。その意味ではCCCは完全なスケープゴートになってしまった。

そして、本来的に叩くべき対象を誤認してしまったマスコミ各社の責任って正直かなり大きいのではないかと(そのことを彼らがどれだけ自覚しているかはよくわかりませんが)。

 この一連の報道を受けて、民間企業は、捜査関係事項照会への対応を必ずきつくするはずです(実際そのような声は見聞きします)。今までは、正直緩めに対応していた部分も、もしかしたらあるのかもしれません。しかし、今後は、本来は開示されても問題なかった情報でさえ、令状がなければ開示できませんという運用が定着するのではないかなと思います。

これって、本来、裁判所が厳格に審査すべき判断が、国のコスト負担なく、民間企業に転嫁されてしまっている問題ともいえるのではないかと。

次回は、

とはいえ、捜査関係事項照会は来るわけだし、民間企業として、どのようなプロセスの下に対応すればいいんだ?という点について考えていきたいと思います。